1、 給与所得者は、事業所得者等と異なり、自己の計算と危険とにおいて業務を遂行す るものではなく、使用者の定めるところに従って役務を提供し、提供した役務の対 価として使用者から受ける給付をもってその収入とするものであるところ、右の給 付の額はあらかじめ定めるところによりおおむね一定額に確定しており、職場にお ける勤務上必要な施設、器具、備品等に係る費用のたぐいは使用者において負担す るのが通例であり、給与所得者が勤務に関連して費用の支出をする場合であっても、 各自の性格その他の主観的事情を反映して支出形態、金額を異にし、収入金額との 関連性が間接的かつ不明確とならざるを得ず、必要経費と家事上の経費又はこれに 関連する経費との明瞭な区分が困難であるのが一般である。その上、給与所得者は その数が膨大であるため、各自の申告に基づき必要経費の額を個別的に認定して実 額控除を行うこと、あるいは概算控除と選択的に右の実額控除を行うことは、技術的及び量的に相当の困難を招来し、ひいて租税徴収費用の増加を免れず、税務執行 上少なからざる混乱を生ずることが懸念される。また、各自の主観的事情や立証技 術の巧拙によってかえって租税負担の不公平をもたらすおそれもなしとしない。旧 所得税法が給与所得に係る必要経費につき実額控除を排し、代わりに概算控除の制 度を設けた目的は、給与所得者と事業所得者等との租税負担の均衡に配意しつつ、 右のような弊害を防止することにあることが明らかであるところ、租税負担を国民 の間に公平に配分するとともに、租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現するこ とは、租税法の基本原則であるから、右の目的は正当性を有するものというべきで ある。
(サラリーマン税金訴訟、最高裁判所昭和 60 年 3 月 27 日大法廷判決)